CALENDAR
S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930   
<< September 2020 >>
ARCHIVES
CATEGORIES
<< 命はひとつ | main |
貴婦人のひとこと

まだ二十代で東京のホテルのスタジオで働いていた頃、正月出勤のご褒美として、仕事帰りにホテルの上層階での食事を、何人かで楽しんでいた時だった。

 

 突然グラリと揺れる地震が何度か続いた。

 

ふと隣のテーブルで一人で食事をしている貴婦人に目をやると、とても動揺している様子だったので、瞬間的にもし何かあったらこの貴婦人を助けなければならないし、ハラが減ったままでは長丁場になったら大変だと、私は目の前にある食事を急いで食べ始めた。

 するとその直後に、貴婦人は私に向かってこう言った。

「よく食べられるわね」

 私には返す言葉がなかった。そしてこう思った。「この貴婦人を助けるのはやめにしよう・・・」

溺れる人は溺れている人を助けることはできないというが、その時に感じた青年の気持ちは、そのひとことで見事に翻ってしまった。

| - | 17:47 | - | - |