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オータの杜

「この木は何という木?」

「山こぶし。春には白い花が咲くのよ。」

私と祖母の会話である。

平成元年、ちょうど新しいスタジオを建てている時で、祖母の家の庭の隅に一本の若いこぶしの木が立っていた。

実はその日、スタジオの前に移植をする一本の木を探していた。

私はそのこぶしがスタジオの前で大きく育ち、春に白い花をたくさん咲かせている姿を想像してみた。

「これがいい」

祖母はニッコリうなずいてくれた。

「それとこのもみじの木」と言ってもう一本追加した。

やがて新しいスタジオは完成し、祖母と約束した二本の木が運ばれてきたが、その庭師さんのトラックには約束以上の木がたくさん積んであった。

イチイ、シャクナゲ、ドウダンツツジ、ツツジ、サツキ・・・

その日から、私はこれらの植物との暮らしが始まった。

そうして、まる二十六年、四季を通じて水を撒いたり、枝を刈ったり、雪で埋めたりし乍ら日々を過ごしてきたのだが、やはりシロウト。幾つかの木を枯らしたりみすぼらしくなっていく植物たちに閉口していた頃、ひとりのオジイサンが通りかかった。

〈これこれの木は水を欲しがるから夕方になったらたくさん水をあげなさい。これこれの木はこうやると良い。これこれは…〉

実はその日以来、植物たちは順調なのである。あの時のオジイサンはいったい誰だったのだろうと、現在でも時々思ったりする。

「私はあそこを『オータの杜』と呼んでいるのよ」というご婦人に出会ったと最近妻から聞いた。

「この木は何という木?」

祖母との会話で、そのこぶしの木が大きく育ち、春に白い花がたくさん咲いているイメージに近づいた現在、

『オータの杜』とは。なんとまぁ実にいいじゃないの。

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